映画「テルマエ・ロマエ」の原作使用料が100万円だった――この告白から15年。あの問題は何を変えたのか?漫画家と出版社、映画業界の関係を振り返る。
はじめに ── あの「100万円発言」から15年
2013年、漫画家・ヤマザキマリさんがテレビ番組で語った「映画『テルマエ・ロマエ』の原作使用料は100万円だった」という告白。
当時、興行収入58億円の大ヒット映画の裏にそんな事実があったとは…と世間がざわつきました。
あれから15年。
この「100万円問題」は、今では単なる話題ではなく、漫画家・作家と出版社、そして映像化ビジネスの関係を象徴する出来事として語られています。
「テルマエ・ロマエ」原作料100万円問題とは?
2013年2月放送のバラエティ番組『ジョブチューン ~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』でヤマザキマリさんが語った内容はこうです。
「映画『テルマエ・ロマエ』の興行収入が58億円にも達したにもかかわらず、原作使用料として支払われたのは約100万円だった」
JCASTニュース「テルマエ・ロマエ「興収58億で作家の取り分100万」騒動 映画製作者・出版社と作者間の問題浮き彫りに」 2013.03.05 記事より
「出版社が窓口になっていたので、契約の詳細は知らなかった」
さらに、
「権利を出版社に売ってしまう形なので、100万円で何をしてもいいよ、という状況になってしまった」
JCASTニュース「テルマエ・ロマエ「興収58億で作家の取り分100万」騒動 映画製作者・出版社と作者間の問題浮き彫りに」 2013.03.05 記事より
「映画の宣伝・番宣もノーギャラだった」
などの内部事情も併せて語られ、ネット上で批判や議論が巻き起こりました。
当時の報道によると、映画の興行収入は約58億円。
それにもかかわらず、原作者に支払われたのはわずか100万円だったといいます。
ただし、ヤマザキさんの代理人である弁護士はこう補足しています。
「彼女は“金額そのもの”よりも、“なぜその金額なのか説明がなかった”ことに疑問を持っていた」
つまり、問題の本質は「説明責任の欠如」にあったのです。
なぜ100万円になったのか?── 業界の慣習
漫画の映画化では、通常「翻案権」という権利を映画会社に許諾し、一括契約で報酬を支払うのが慣例です。
このため、映画がどれだけヒットしても、原作者の報酬が上乗せされることはほとんどありません。
ヤマザキさんの場合も、出版社(当時のエンターブレイン)が映画会社と契約を交わし、原作者本人は細部に関与できませんでした。
いわば、「出版社が交渉した結果の金額を作家が知らされただけ」だったのです。
同じようなケースは他にもあります。
たとえば映画『海猿』の原作使用料は250万円程度だったと報じられています。
こうした“原作料が安すぎる”問題は、実は長年業界に根づいていた慣習でした。
あれから15年── 何が変わったのか?
ヤマザキマリさんは公式サイトで、次のように振り返っています。
「あの発言で傷も負いましたが、あの騒ぎが原作者の権利を意識するきっかけになったなら、それは良かったと思います。」
この言葉には、問題提起をした人としての覚悟がにじみます。
そして、15年後の今。
少しずつではありますが、業界にも変化が見られます。
契約の透明化が進み始めた
出版社や映画会社が交わす契約内容について、作家にも開示するケースが増えてきました。
また、弁護士やマネージャーを通して自分で交渉する作家も増加。
「出版社任せにしない」流れが強まっています。
成功報酬型の契約も登場
人気作になると、原作使用料に加えて興行収入に応じたボーナス(成功報酬)を設定するケースも出てきました。
海外では当たり前の仕組みが、日本でも少しずつ広がりつつあります。
続編・再契約の際に条件見直し
『テルマエ・ロマエII』など続編が制作される際には、報酬や契約条件を再交渉することも増えました。
ヤマザキさん自身も、2作目では代理人とともに条件を見直したとされています。
それでも残る課題
変化は始まっているものの、根本的な構造はまだ完全には変わっていません。
今後の課題を整理してみましょう。
契約の「見える化」
作家が納得して契約できるよう、出版社・映画会社には説明責任の明確化が求められます。
「どうしてこの金額なのか」をきちんと説明することが、信頼関係の第一歩です。
成功と報酬の連動
作品がヒットしても原作者の報酬が変わらないのは、やはり不公平。
興行収入や配信視聴数に応じた報酬体系を作ることで、作家の創作意欲と公平性が守られるでしょう。
交渉を支える仕組み
作家個人では交渉が難しいため、専門のマネジメント会社や弁護士ネットワークを整えることが重要です。
欧米ではこうしたエージェント文化が根づいており、日本でもその必要性が高まっています。
おわりに ── 「100万円」は何を変えたのか
「100万円問題」は、金額の多寡を超えて、日本のクリエイター環境のあり方を問う出来事でした。
契約の透明化、権利の説明、報酬の公平性。
どれもすぐには変わらないテーマですが、ヤマザキマリさんの告白が“第一歩”になったのは間違いありません。
作品を生み出す人たちの努力と想いが、きちんと報われる世界へ。
15年前の「テルマエ事件」は、今も私たちにその大切さを静かに問いかけています。
📚 参考
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